東京地方裁判所 昭和48年(ワ)3515号 判決 1976年1月30日
原告 小原良二 外一名
被告 株式会社角松 外三名
主文
一 原告小原良二に対し、別紙物件目録(一)記載の土地につき、被告株式会社角松は別紙登記目録(一)1ないし3記載の、被告株式会社三景は同目録4ないし6記載の、被告佐藤昭好は同目録7ないし9記載の、被告清和建設株式会社は同目録10ないし12記載の各登記の抹消登記手続をせよ。
二 原告小原孝子に対し、別紙物件目録(二)記載の建物につき、被告株式会社角松は別紙登記目録(二)1ないし3記載の、被告株式会社三景は同目録4ないし6記載の、被告佐藤昭好は同目録7ないし9記載の、被告清和建設株式会社は同目録10ないし12記載の各登記の抹消登記手続をせよ。
三 原告らのその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを五分し、その一を原告らの負担とし、その四を被告らの負担とする。
事実
一 原告らは、主文第一、二項と同旨及び「被告らは各自、原告小原良二に対し金二三〇万円及びうち金一〇〇万円に対する昭和四八年六月一四日から支払済に至るまで年五分の金員を、原告小原孝子に対し金一〇〇万円及びこれに対する昭和四八年六月一四日から支払済に至るまで年五分の金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決及び金員支払を命ずる部分について仮執行の宣言を求め、被告らは「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。
二 (請求の原因)
1 別紙物件目録(一)記載の土地(以下単に本件土地という)は原告小原良二の、同目録(二)記載の建物(以下単に本件建物という)は原告小原孝子の各所有である。
2 本件土地、建物には、被告株式会社角松のために別紙登記目録(一)、(二)の各1ないし3記載の、被告株式会社三景のために同目録等各4ないし6記載の、被告佐藤昭好のために同目録等各7ないし9記載の、被告清和建設株式会社のために同目録等各10ないし12記載の各登記がなされている。
3 しかし、原告らは本件土地、建物について被告株式会社角松と、前記各登記目録の各1ないし3記載の各登記の原因である抵当権設定契約、売買予約及び停止条件付賃借権設定契約をしたことはないし、また同被告のために前記各登記手続をしたことはないのであつて、右各登記は同被告が原告ら不知の間にその意思に基づかないで恣にこれをしたものであるから、いずれも無効である。従つて、右各登記を前提とする前記各登記目録の各4ないし12記載の各登記もすべて無効である。
4 前記各登記目録の各1ないし3記載の各登記手続は、被告株式会社角松において原告らの意思に基づかないで恣にこれをしたものであることは右述のとおりであるが、その余の各被告はいずれも右の事情により右各登記が無効であることを知悉しながら、あえて前2記載の各登記を経由するに至つたものである。しかのみならず、原告らは各被告に対し本件各登記が無効である所以を訴え、抹消登記手続をするよう求めたが、被告らはこれを無視し、徒らに右各登記の有効を主張して、不当な抗争を続けている。
5 原告らは、被告らの前記不法行為(即ち、被告らにおいて不法に本件各登記を経由したこと及び不当に抗争していること)により、次のような損害を被つた。
(一) 本件各登記がなされたことにより、原告らが居住する本件土地、建物は、原告ら不知の間に自己の経済的能力をはるかに超える債務の担保に供されたことになるため、原告らは、右土地、建物をいつ不法に奪われるかもしれないとの不安にさいなまれると共に、原告らの社会的、経済的信用は失墜し、右各登記の抹消登記手続をして信用を回復するために、原告らは多大の苦慮を強いられている。原告らの、この精神的苦痛を金銭を以て慰藉するとすれば、各原告について一〇〇万円宛を以て相当とする。
(二) また、被告らにおいて本件各登記の抹消登記手続をすることを肯んじないため、原告らはその訴訟代理人である各弁護士に委任して本件を提起するの止むなきに至つたが、原告良二は右各弁護士に手数料として三〇万円を既に支払い、かつ、本件が原告らの勝訴となつた場合には成功報酬として一〇〇万円を支払うことを約している。
6 よつて、原告らは各被告に対し本件土地、建物になされている前2記載の各登記の抹消登記手続をすることを求めると共に、不法行為による損害賠償として、被告らにおいて連帯して、原告良二に対しては前5の(一)、(二)の合計二三〇万円及びうち一〇〇万円に対する本件訴状送達の最終日の翌日である昭和四八年六月一四日から支払済に至るまで民事法定利率年五分の金員の、原告孝子に対しては前5の(一)の一〇〇万円とこれに対する右昭和四八年六月一四日から支払済に至るまで右年五分の金員の各支払をすることを求める。
三 (答弁及び抗弁)
1 (答弁)
(一) 請求原因1、2の事実は認める。
(二) 同3のうち、原告らから本件各登記が無効である旨の通告をうけたことがあることは認めるが、その余の事実は否認する。
(三) 同5の(一)はこれを争うが、(二)の事実は知らない。
2 (抗弁)
本件各登記はいずれも実体関係に基づく有効なものであつて、その詳細は次のとおりである。
(一) 被告株式会社三景は昭和四七年五月当時訴外大島英一に対し合計三、五三九万円の損害賠償債権を有していたところ、大島は、原告らの代理人として本件土地、建物について、これらを同訴外人の所有名義とすることをも含めてその処分一切を任されていたので、その頃同被告会社に対し、前記債務の担保として本件土地、建物を提供することを申出た。そこで、同被告会社の代表者である深堀和義は、大島をして本件土地、建物によつて他から金融を受けさせ、これを以て前記債権の支払を受けようと考え、被告株式会社角松を大島に斡旋した。被告株式会社角松は、大島に本件土地、建物を担保として三、五三九万円を貸渡すこととし、同年五月一〇日右土地、建物に債権額を三、五四〇万円とする抵当権設定契約をし、ついで同月三一日には、右土地建物につき右債務の不履行を停止条件とする賃借権設定契約及び売買予約をし、これらに基づいて別紙登記目録(一)、(二)の各1ないし3の各登記を経由した。ところが、被告株式会社角松はその後都合により大島に前記金員を貸渡さなかつたので、被告株式会社三景は、大島に対する前記債権を担保するため、右の各登記を一旦抹消して、あらためて抵当権等の設定をうけるのにかえて、同年六月二〇日被告株式会社角松から右登記上の権利の移転を受け、これに伴い前記各登記目録各4ないし6記載の各登記を経由したものである。
(二) 仮りに、大島が本件土地、建物について右述のような代理権を有していなかつたとしても、大島は昭和四七年五月当時原告良二からその経営する会社の営業資金に充てるため本件土地、建物を担保にして他から借入れをすること、また場合によつてはこれを売却することを依頼されて、原告らからその旨の代理権を与えられ、かつ、各各原告の白紙委任状及び印鑑証明書を所持していたものである。そうして、右(一)の各契約及びこれに基づく各登記は、右白紙委任状等によつてなされたものであるところ、大島は弁護士であつて原告良二の経営する会社の役員であり、かつて右会社の借入れについて保証をしたことがある等原告らと親しい関係にあることを知つていたので、被告株式会社三景の代表者である深堀及び被告株式会社角松の代表者は、いずれも右契約にあたり大島には当然これをなす権限があるものと信じ、かつ、かく信ずるについて正当の事由を有したものである。従つて、原告らは、表見代理の法理により、大島のした前(一)の各契約につきその責に任ずべきものである。
(三) つぎに、被告佐藤昭好は、同年六月頃被告株式会社三景から約束手形四通、この金額合計三、五〇〇万円の割引を依頼されたので、被告清和建設株式会社からその資金を借受けたうえ、同年七月四日被告株式会社三景に対し割引名下に三、五〇〇万円を貸渡し、即日これが担保として、同被告会社から前記登記目録(一)、(二)の各4ないし6の各登記上の権利の移転を受け、直ちにこれらを被告清和建設株式会社に譲渡した。このような経緯の下に、上記各被告のために、請求原因2記載の各登記が経由されたものである。
四 (抗弁に対する認否等)
1 抗弁(一)のうち、大島が被告ら主張の代理権を有していたことは否認する。
2 同(二)のうち、原告らが大島に被告ら主張の白紙委任状及び印鑑証明書を交付したこと、大島が原告良二の経営する会社の役員(監査役)であつたこと、及び大島が右会社が金員の借入れをするについて保証をしたことがあることは認めるが、その余の事実は否認する。即ち、原告らが大島に依頼したのは、本件土地、建物を担保にしてする金銭の借入れ、ないしは、相当な価格による右物件の売却の斡旋に止まり、前記白紙委任状等は借入れないし売却の話がまとまつた際登記手続をするために予じめ交付しておいたものにすぎない。また、深堀は、強制、偽計等違法な手段を弄して、大島から右白紙委任状等を取得したものであるから、同人の仲介斡旋の下にこれによつてその主張の各契約をした被告株式会社角松には、大島に被告ら主張のような権限があると信ずべき正当な理由があるとはいえず、むしろ、同被告は右白紙委任状等が交付された前叙の趣旨を知つていたものというべきである。
3 同(三)の事実は知らない。
五 証拠<省略>
理由
一 本件土地が原告良二の、本件建物が原告孝子の各所有であること及び右土地、建物につき被告らが原告ら主張の各登記を経由していることは当事者間に争いがない。
二 そこで被告らの抗弁について審究する。
1 各原告がその白紙委任状及び印鑑証明書を大島に交付したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、成立に争いのない甲第一、第二号証、同第一二号証(刑事事件における証人野口信吉の供述調書)、乙第一二号証の一、二、被告株式会三景代表者尋問の結果により真正に成立したと認める乙第一号証の一、二、第二、第三号証、第四、第五号証の各一、二、証人大島英一の証言、原告良二本人(第一回)及び被告株式会社三景代表者の各尋問の結果(但し、右甲第一二号証の記載ならびに前示証言及び各尋問の結果のうち後記措信しない部分を除く)ならびに弁論の全趣旨を総合すると、次のとおり認められる。
(一) 弁護士である大島英一は、昭和四七年三月下旬頃かねて知合いの原告良二からその経営する会社の営業資金とするため、本件土地、建物を担保として三〇〇万円位い借受けることを依頼され、その際、同原告から各原告の白紙委任状及び印鑑証明書の交付を受けた。右借入が成果を得ないうちに、大島は原告良二から、更に適当な買主があれば右土地、建物を売つてもよいとして、これが売却方をも依頼されるに至つたが、これもそのままとなつていた。
(二) 一方、大島は、同年三月初頃、当時事件の依頼を受けていた訴外野口信吉を通して知り合つた被告株式会社三景の代表者深堀和義から、約束手形の割引の斡旋を依頼され、深堀から訴外有限会社左曾利商店が同被告会社に宛て振出し、同被告会社が裏書をした約束手形九通金額合計一、〇〇〇万円を預り、友人に割引依頼をすべく保管していた。
ところが、大島はその頃これを訴外の芝浦不動産なる不動産業者に対する前渡金返還債務にあてるためとして同訴外人の関係者に取上げられ、その後うち五〇〇万円分の約束手形は、これを取戻して深堀ないし被告株式会社三景に返還したものの、他の五〇〇万円分については取戻すことができず、結局同被告会社においてその支払を余儀なくされた。
(三) このようにして、大島は被告株式会社三景に対して五〇〇万円の返還債務を負うに至り、その後多少支払をしたが、同年五月当時なお三五〇万円余が残つていた。深堀は大島の事務所はもとよりその外出先にまでつきまとつて右金員の返済を執拗に求め、ために大島は一時その所在をくらました程であつた。その後も、深堀は大島の自宅に泊りこむなどして大島の行方を追求していたが、同年五月二日大島とその事務所で会えたことから、一気に返済を求めようと考え、同日夜は大島をホテルに同宿させ、また、翌三日夜には所用のため一旦帰宅した大島を再びホテルに呼出し重ねて支払を要求した。
大島は、深堀からの右述のような強い追及にあい、原告良二から本件土地、建物の売却方の依頼をうけて、原告らの白紙委任状及び印鑑証明書を預つていることを明らかにし、右物件の売却が奏功すれば、それによつて得られる利益で前記金員の支払をする所存であると告げたところ深堀は、右金員の支払の担保として右白紙委任状等を引渡すことを求めるに至つた。
そこで、大島は右述の経過に鑑み、白紙委任状等を引渡すのも止むを得ないと考え、深堀に対し、出来るだけ早急に前記金員の支払につとめるので、さしあたつてはその事実上の担保として保管することを希望するが、相当の期間内に支払ができない時は、深堀において前記書類を用いて本件土地、建物を担保に供し、他から金融を得て、これを右金員の支払にあてても止むを得ないとして、同日前記白紙委任状及び印鑑証明書を深堀に引渡した。
(四) その後深堀は、前(二)のとおり大島が手形割引の斡旋をしなかつたことにより被告株式会社三景は三、五三九万円の損害を被つたので、大島に対しこれが賠償を求めると主張し、その支払にあてるため知合いの被告株式会社角松をして、本件土地、建物を担保に大島に三、五三九万円を貸付させることとして、同被告会社に前記白紙委任状等を引渡した。
そこで、被告株式会社角松は、右白紙委任状等を用いて、同年五月一〇日大島に対する三、五四〇万円の貸金債権につき本件土地、建物に抵当権設定契約をし、ついで同月三一日には、右債務の不履行を停止条件とする賃借権設定契約及び売買予約をもし、これらに基づいて前記白紙委任状の委任事項を補充し(これが乙第六、第七号証の各二である)、これにより別紙登記目録(一)、(二)の各1ないし3の各登記を経由した。
ところが、同被告会社はその後大島に前記金員を貸渡さなかつたので、被告株式会社三景は、同被告の大島に対する前記債権を担保するためとして、同年六月二〇日被告株式会社角松から前記登記上の権利の移転を受け、これに伴い前記各登記目録各4ないし6記載の各登記を経由した。
(五) 他方被告佐藤は同年六月頃被告株式会社三景から約束手形四通、金額合計三、五〇〇万円の割引を依頼されたので、被告清和建設株式会社からその資金を借受けたうえ、同年七月四日これに応じ、その担保として即日同被告会社から、前記登記上の権利の移転を受けたうえ、直ちにこれらを被告清和建設株式会社に譲渡し、かくして、前記各登記目録各7ないし12の各登記が経由された。
このように認められ、前示甲第一二号証中の記載、証人大島の証言、原告良二本人及び被告株式会社三景代表者の各尋問の結果のうち、右認定に反する部分はたやすく措信し難く、他にこれを左右すべき的確な証拠はない。
2 そこで考えてみるのに、まず、右認定の事実によれば、大島が自己の被告株式会社三景に対する債務(その額については暫く措く)のために本件土地、建物を担保に供し、これに抵当権を設定する等の処分をするについて、各原告を代理する権限を有していたものとは到底認められず、その他本件にはこれを認むベき的確な証拠はないから、被告ら主張の抗弁(一)は理由がなく採用できない。
進んで、右抗弁(二)の表見代理の主張について検討する。被告株式会社角松が本件土地、建物について、右認定のとおり抵当権設定契約、停止条件付賃借権設定契約及び売買予約をしたのは、右認定の事実によれば、深堀が、大島から右土地、建物により適宜金融を得てよいとして各原告の白紙委任状等を交付されたことによるものと認めるのが相当である。ところで、右認定の事実によると、(一)右白紙委任状等を交付する際、大島は被告株式会社三景から強く債務の履行をせまられており、いわばその要求に屈する形で、右の交付をしたものである事情がうかがわれること(なお、前示甲第一二号証の記載及び証人大島の証言中には、深堀が右白紙委任状等を奪い去つたかのようにいう部分もあるが、右はたやすく措信し難い)、(二)右交付当時大島は、被告株式会社三景に対する債務は三五〇万円前後であると予定しており、前認定のように三、五三九万円もの債務があるとは毛頭考えていなかつたと認められるうえに、右損害に関する同被告会社代表者尋問の結果は曖昧かつ不正確であること及び(三)右認定の事実によると、大島は原告良二から本件土地、建物の権利証は預つておらず、従つて深堀にも権利証の引渡をしていないことが明らかであるが、もし、被告ら主張のように大島が本件土地、建物を自由に処分する権限を有するのであれば、大島は権利証を所持しているのが通例であるから、深堀としては前示白紙委任状等の引渡を受けた際、権利証のないことについて疑念を生じて然るべきものと考えられることの諸点からすると、深堀が大島から白紙委任状等を渡された際、大島に被告ら主張のような権限があると信じたことは軽率であつたといわざるを得ないから、結局株式会社角松及び同株式会社三景においては、大島に被告ら主張の代理権があると信ずるについて正当な理由があるものと認め難いことに帰し、他にこれを認むべき的確な証拠はない。してみると、さらに立入つてせんさくするまでもなく、被告株式会社角松ないしは被告株式会社三景について表見代理の成立する余地はないものというべきであるから、この抗弁もまた理由がなく、採用できない。
三 従つて、本件土地、建物について被告株式会社角松のためになされている別紙登記目録(一)、(二)の各1ないし3記載の各登記は、いずれも実体にそわない無効のものであり、また、その余の被告らのためになされているその他の各登記は、右の登記を前提とするものであるから、これまたすべて無効というべきである。
ところで、本件のように主登記(即ち、被告株式会社角松のためになされている右の各登記)について権利移転の付記登記(即ち、爾余の各登記)がなされている場合において、主登記の原因関係が存在しないことを理由にこれが抹消登記手続を求めるには、現在の付記登記の名義人(本件においては被告清和建設株式会社)を相手方として、主登記の抹消登記手続を求めれば足りることは既に判例(最高裁判所第二小法廷、昭和四四年四月二二日言渡判決、民集二三巻四号八一五頁)の示すところではあるが、主登記及び中間の付記登記の各名義人において本件のように登記は無効ではないとして争つている場合には(このことは、本訴の経過に徴して明らかである)、これらの者にも既判力を及ぼすため、全員を被告として、最後の付記登記を抹消することによつて復活すべきその他の付記登記及び主登記を順次抹消する趣旨において、主登記及びすべての付記登記の抹消登記手続を同時に訴求することもまた許されるものと解するのが相当であるところ、弁論の全趣旨によれば、原告らの本訴のうち、抹消登記手続を求める部分は、右の趣旨において被告株式会社角松に対しては前記主登記の、その余の被告らに対しては各付記登記の抹消登記手続をすることを求めるものと認められるから、すべて理由がある。
四 原告らは、さらに被告らは本件各登記を経由したことにより、共同して原告らの権利、利益を侵害したと主張するが、前二、1に認定したところによれば、未だ右主張を肯認するに十分ではなく、他にこれを認むべき的確な証拠はない。また、原告らが被告らに対し、本件各登記が無効である旨通告したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実ならびに成立に争いのない甲第八号証の一ないし四、同第九号証の一、二及び弁論の全趣旨によると、被告らは、昭和四七年末頃から昭和四八年初頃にかけて、原告らから、右各登記が無効であるから抹消登記手続をするよう求められたものの、これに応じなかつたことが認められるが、前記認定の事実に照して考えるとき、右一事を以て被告らにおいて原告らに対し不当に抗争するものとは認め難く、他に被告らにおいて原告に対し不当抗争に及んだ事実を認むべき証拠はない。
してみると、被告らにおいて、本件各登記を経由したこと及びこれを維持していることを以て原告らに対し不法行為をなすものと認めることは困難であるから、原告らの請求のうち、不法行為を前提とする部分はすべて理由がない。
五 してみると、原告の本訴請求は、被告らに対し、本件土地、建物についてなされた別紙登記目録(一)、(二)記載の各登記の抹消登記手続をすることを求める限度で理由があるからこれを認容すべきであるが、その余は失当であつて棄却を免れない。よつて、訴訟費用の負担を第四項のとおり定めたうえ、主文のとおり判決する。
(裁判官 川上泉)
(別紙)物件目録
(一) 埼玉県朝霞市本町二丁目一八五三番二
宅地 八七二・一九平方メートル
(二) 埼玉県朝霞市本町二丁目一八五三番地一
家屋番号 一九八番一一
一 木造瓦葺平家建居宅
床面積 七六・八五平方メートル
(別紙)登記目録<省略>